「シマノのパワーメーターで強くなる!」モニター第1期生指導開始!

text 大宅宏幸(サイクルスポーツ編集部) 
 photo 山内潤也/岡 拓
Presented by SHIMANO

シマノの最新パワーメーターを使っているサイクリストを応援する、ユーザー参加型連載企画のモニター第一期生が決定! 目標レースの「乗鞍ヒルクライム2023」へ向けて、ハムスタースピン代表の福田昌弘コーチによる指導を開始した。その様子をお届けするとともに、読者の皆さんも参考になる、シマノのパワーメーターを活用したペダリング改善術も紹介しよう。

モニター第一期生の3人を紹介

厳正なる抽選の結果、モニター第一期生になったのは下の3人だ。

杉本 健さん

杉本 健さん

杉本さんは東京都在住の40代男性。身長は169cm、体重は58kgで、FTPは約275W。2022年の乗鞍ヒルクライムでは年代別で7位に入っており、2023年は年代別で3位以内に入り、表彰台に立つことが目標だ。多くのサイクリストにとって参考になるモデルと言えるだろう。

まぬる猫さん

まぬる猫さん

まぬる猫さん(ペンネーム)は、東京都在住の50代女性。身長は153cm、体重は44kgで、FTPは168Wだ。2022年の乗鞍ヒルクライムのタイムは1時間24分56秒で、一般女子クラスで19位。2023年は1時間20分のタイムを目指す! ヒルクライムレースに挑む女性サイクリストはぜひ参考にしてほしい。

松島寿樹さん

松島寿樹さん


松島さんは茨城県在住の40代男性。身長187cm、体重69kgで、FTPは350W。2022年の乗鞍ヒルクライムはチャンピオンクラスで出場し、26位に入っている。体力レベルが高く、レースでもトップクラスで走る人にどんな課題があるのか、そしてそれをどう改善したらいいのか。我々一般レベルのサイクリストにも参考になるはずだ。

指導に当たるハムスタースピン代表・福田昌弘さん

自転車コーチの福田昌弘さん

日本唯一と言っていい“ペダリング研究家”で、自転車コーチとして活躍。自らのコーチングサービス「ハムスタースピン」を主宰している。シマノのパワーメーターへの見識も深い。

まずは各自の課題を把握〜体力レベルが高くトレーニングは十分だけど……

2023年6月に指導をスタート。指導方法はメッセージングアプリを使用し、オンラインで行うというもの。モニター全員と福田さん(そしてサイクルスポーツの事務局)のグループチャットを作成し、各自与えられた課題に対して動画を撮影して送信、かつそのシマノ・コネクトラボにおけるデータを送り、それに対して福田さんがコメントするというものだ。また、定期的に全員で集まったオンラインミーティングを持ち、それぞれの現状を確認し合っている。

「人のふり見て我がふり直せ」とは福田さんの談で、全員がそれぞれの課題を確認し合うことで自分の成長に役立てることができる、という福田さんの方針でこのような形式をとっているのだ。

最初の“宿題”として、インドアトレーナーでの10分FTP走が与えられた。その動画を撮影するとともに、シマノ・コネクトラボでのデータを各自提出した。

杉本さんの現状と課題

「まずペダリングの様子についてですが、膝関節の曲げ伸ばしのみでペダリングしていて、股関節の能動的な動きがないですね。

また、上半身が左右に大きく揺れ動いていることも分かります。股関節を動かすためには、体幹部にしっかりと力を入れていく必要があるのですが、ペダリング中に体が左右に大きく動いているということは、それだけ体幹部に力がうまく入っていないということです。これでは高負荷になると十分なトルクを発生させることができないでしょう」と福田さん。

杉本さんのシマノ・コネクトラボにおける“時系列グラフ”


「次にシマノ・コネクトラボのデータも見てみましょう。

ペダリング効率とパワーの相関図(“時系列グラフ”)を見ると、最初の10分間はウォーミングアップをしている場面ですが、パワーが上がるとともにペダリング効率が基本的に向上しています。そこまではいいんです。

しかし、150Wを超えるぐらいから上がったり下がったり、安定性がなくなっています。150〜200Wの間あたりで、トルクに対して必要な動きが追いついていないようです。250Wを超えてくると左右バランスが大きく崩れて左寄りになっています。また、パワーは一定で出しているのですが、トルクが安定しなくなって徐々に下がっているのが分かります。無理やりトルクを出しているようです。

これだとレースのとき一番大事な場面で、何とか集団に食らいつこうと一生懸命走るけど、トルクがうまくかけられないからケイデンスを上げて対応しようとし、疲れる一方であまり進まなくなる、というようなことに陥っている可能性があります」。

杉本さんのシマノ・コネクトラボにおける“ペダリンググラフ”

「次に“ペダリンググラフ”を見てみます。シマノのパワーメーターでは、単にパワーが分かるだけではなくて、何度の位置でどのくらいトルクを発生させているのか、といったことが分かります。0度が上死点で、90度が時計の針で言う3時の位置です。理想は、接線方向のトルクが0度〜90度にかけてだんだんとピークを描くようになるといいのですが、杉本さんの場合は90度から上がっていって120度あたりでピークがきています。つまり、踏み遅れが生じています。3時〜4時と、踏み始めるポイントが遅いことがデータから分かります。

これは、多くのサイクリストに見られる症状です」。

これに対し杉本さんは、「ペダリングのコーチングということで、脚の動きを直すことを指摘されるかと思ってましたが、体幹からの指導で少し驚きました。ただ“なるほど”と思えることが多く、理解を深めながら今後も取り組んでいこうと思います」と感想を述べた。


まぬる猫さんの現状と課題

「まず動画を見てみると、特徴的なペダリングになっていることが分かります。気になるのはサドルがかなり高いことと、足首が底屈(爪先が下がる方向に足首を動かす動き)して動いていて、背屈(底屈と逆の動き)する動きが足りていないことです。

サドルを高くする人の特徴として、上死点をうまく通過できないということがあります。上死点をうまく通過できない、つまり簡単に言えば脚をうまく上げることができないので、サドルを高くしてそれに対応しているわけです。ポジションとは、良くも悪くもその人の能力によって決まってしまうんですよね。

また、まぬる猫さんも杉本さんと同じで、基本的に膝の曲げ伸ばしでトルクを出そうとしています。このやり方は、よく“脚だけで踏んでいる”と言われたり、太ももがパンパンになりやすいペダリングでもあります」と福田さん。

まぬる猫さんのシマノ・コネクトラボにおける“ペダリンググラフ”

「次にデータを見てみます。トルクは90度にかけてピークがきていて、その点では悪くないと思います。ただ、左右差が大きいですね」。

まぬる猫さんのシマノ・コネクトラボにおける“時系列グラフ”

「次に時系列グラフを見ると、10分走をしている部分では、最初はちょっと上げすぎていますが、それからは最後まで変化が少ないです。最初から最後までだいたい同じトルクで踏めている。これは、今行っているトレーニングが大きく外れたものではない、ということを示していると思います。ただ、やはり左右差が大きく出ています」。

これに対し、「過去に右脚の大腿骨と膝の手術をしたことがあり、思うように動かせないんです。和式トイレでしゃがむような動きがよくできません」とまぬる猫さん。

「なるほど。上死点をうまく通過させるためには、股関節をかなり使った動きをしないといけません。これはフルスクワット(後に説明)でしゃがむ動きをしてから、再び立ち上がるときに股関節を使う動きと同じなんです。

今のまぬる猫さんは、現状で持っている身体能力とその体でできる動きに合わせたセッティングをしていて、その範囲で頑張って走っているような状況です。ただ、たとえ過去に手術歴があって思うように体が動かせなくても、それを克服するためにトレーニングをしていかなければ、それ以上の発展がないんですよ」と福田さん。

松島さんの現状と課題

「松島さんは腰椎からきれいに前傾を作れるタイプで、トルクは左右で30Nmを超えていますし持っている体力はなかなかのものです。身体能力が相当に高いタイプです。

しかし、これまでの2人に同じく股関節というよりは膝関節の曲げ伸ばしを主体としたペダリングをしていて、太ももの動きに依存しています。また、あごが上がっているのが気になります。いろいろなスポーツであごを引けと言われますが自転車でも同じで、あごが上がっているとだいたい腹筋の力が抜けた状態になっていることが多いです」と福田さん。

松島さんのペダリンググラフ

「次にデータを見てみましょう。ペダリンググラフでは90度にかけてピークを描いていて、その点は良いですね」。

松島さんの平均トルクエフェクティブネス
松島さんの時系列グラフ

「ただ、トルクエフェクティブネスが低いです。これぐらいで踏んでる時は90%は越えたいところです。この値は何かというと、ネガティブトルク(反対脚で踏んでるトルク)の少なさを示しています。また、後半になるにつれて左右バランスがどんどん崩れてきて、パワーは何とか維持しているものの、トルクもだんだんと落ちてきていることも分かります。これは、体の使い方自体と、筋力の問題が考えられます。

松島さんは相当にトレーニングを積んでいらっしゃるようですし、身体能力もかなりのものです。これで大会で入賞できないはずがありません。逆に言えば、動作の改善をすればさらに上にいけるはず、ということです。後半にかけて動きにばらつきが出てくるのも改善できるはずです」と福田さん。

松島さんは「確かにそれは自分でも課題だと感じているところで、現在の年齢を考えると、力を伸ばしていくにはそこしかないのかな、と思っています」と感想を述べた。

3人の総合評価

「皆さん、それぞれに特徴はあるとはいえ、共通した課題が見られました。

そして、3人とも体力を鍛えるという意味でのトレーニング内容には問題はないと思います。量も十分だと思います。

ただ、問題は体の動かし方にあります。根本的な動作を改善しないでやみくもに高負荷の練習をするだけではなく、しっかりと“動ける体”を作っていく必要があります」。

3人に与えられた課題=フルスクワット

初回の“宿題”をへて、3人に共通して与えられた課題は「フルスクワット」だ。これを日々ライド前などに実施し、体の動作そのものを改善していこう、というのだ。フルスクワットについては、下の動画をチェックしよう。

「良いペダリングを獲得する(詳しくは、『ロードバイクの良いペダリングとその獲得方法〜基礎知識編』を参照)には、膝関節だけではなくて、股関節、足関節も適切に動かせるようにしていく必要があります。

ペダリングは一見単純な動作に見えますが、実際は脚を曲げて伸ばすという複雑な運動を含んでいます。これには、股関節、膝関節、そして足関節の三つの関節が合わせて働いています。

ペダリングの動作は、個々の人によりさまざまで、それぞれの動作によってペダリング時のトルクの発生方法も異なります。脚を曲げたり伸ばしたりすることは、3つの関節が協力して行う動作ですが、特に股関節と足関節の動きに課題を持っている人が多いです。

例えば、膝関節が伸びているのに股関節が伸びていない、または足関節がうまく動かずに爪先の向きが変わってしまうといった問題があります。これらの動きの問題を自転車に乗っているだけで解決しようとすると、難易度が非常に高くなります。

経験豊富なライダーの中には、自分の特有の動きに合わせてクリートやサドルのセッティングをカスタマイズする人も多く、その結果、問題のある動きが反対にトレーニングを難しくしている場合があります。

したがって、股関節、膝関節、足関節の3つの関節がうまく曲げ伸ばしする運動を行うためには、自転車を降りて行う、より安定した環境でのトレーニングが必要となります。その一つの方法がフルスクワットの実施です。

フルスクワットはただしゃがんで立ち上がるだけの運動ではありません。骨盤以上の体幹部分に無駄な動きを出さず、下肢の部分では、股関節、膝関節、足関節の3つが適切に動くことが求められます。

この運動を繰り返すことで、脚の曲げ伸ばしの動作を改善し、それが結果としてペダリングの改善につながります」と福田さん。

「この訓練に取り組みつつ自転車に乗ってトレーニングしているうちに、少しずつペダリング動作が改善されてきて、結果的にシマノ・コネクトラボのデータも改善されてくるはずです。シマノのパワーメーターとコネクトラボを使えば、自分の改善度合いの把握もできるといういことですね」。

早速、3人にフルスクワットを行ってもらった。

杉本さん

「杉本さんはしゃがむときに膝から先に動き、そして立ち上がるときは膝が最初に伸びきります。股関節を同時に動かせていません。また、しゃがむときに骨盤を落としきれていません。これは、ここまでに腹筋に力を入れきれていないからです」と福田さん。

まぬる猫さん

「まぬる猫さんはしゃがむ動作までは良いです。脚を深く曲げることへの恐怖心からかややぎこちなさがありますが、動画ではしっかりとしゃがみこめていて、ここまでできるのは相当にすごいことです。腹筋が強いんですね。ただ、立ち上がるときに先に膝が伸びきり、股関節が遅れて伸びていきます。太ももに先に力が入ってしまっているからです」。

松島さん

「そして松島さん。身体能力が高いので何とかやりきってくれていますが、背中が曲がったり伸びたりするのを抑えていきたいです」。

いかがだっただろうか。読者の皆さんも、自分のペダリングを改善するうえでのヒントが得られたはずだ。このまま3人がどう変わっていくのか。次回は8月中旬に記事を公開予定だ。どのくらい3人が成長したのか、途中経過をお届けする。